お得なアート鑑賞と苦悩の画家と、

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昼飯後、図書館に本を返却するついでに奥さまと散歩。すると、同じ石橋文化センターの敷地内にある久留米市美術館が開館記念日で入館料無料になっていた。

現在行われている「没後35年 鴨居玲展 静止した刻」は、もともと期間中にタイミングを見て行こうと思っていたのだけど、なんという好機会。西鉄の駅ビルの観光館内窓口で会期に入っても前売り券を売っていたから、それでお安く観ようと思っていたんですけどね。

恥ずかしながら、鴨居玲という画家について、この展覧会で知るまで、なんの知識もなかった。駅前に掲示してあるポスターの、酔っ払った老人の絵で、なんか凄い画家がいるみたいだと気になっていた。

鴨居玲の画風は闇のように暗く、黒や赤を基調した作品が多い。それでいて、差し込む光がわずかながらに明るい。黒と赤、闇と光によって、安定と不安、願いと絶望、生と死といった二律背反を描き、一枚に絵画にしていく鴨居玲の創造の力に圧倒された。

特に1973年作の「私の話を聞いてくれ」が僕の胸にググッと迫ってきた。何かを訴えようとする老いた男を描いているのだけど、その表情や仕草が切ない。

また、左上に空いた大きな空間に、何かを描き込んでは乳白色の絵の具で覆い隠されていて、これまでの彼の人生のようでもあり、背後霊のようでもあり、曲がった背中に包み込むように浮かび上がっている。

そんな繊細な表現もだけど、赤が妙に照明性を帯びていて、どうしてなのかと作品に近づいてみると、どうやら下地に白を塗ってから、その上に赤を乗せているみたいだ。

こういうのって、印刷物でなく実際に作品を観ないとわからないことなので、今回の展覧会に巡り会えたことは有り難いことですね。