恐れ入谷の鬼子母神

いつものようにスーパーの朝市で今週分の食材をまとめ買いして、僕は洗濯と炊事と原稿書き、奥さまは掃除。3時前に出かけようとして、ベランダの洗濯物を取り込んでいたら、天気予報より早めに雨が降ってきた。
今日のお出かけはKBCシネマで映画。まったくの偶然なのだけど、3週連続で韓国映画を観ることに。なにはともあれ、新作がかかったら観ることにしている、キム・ギドク監督の『THE NET 網に囚われた男』だ。
主演のリュ・スンボムさんの髭面が、懸賞生活のなすびさんに見えてしまい、最初こそクスッとしてしまったけど、北朝鮮で生まれ育ち、韓国で翻弄される姿は、鬼気迫っていた。ギドク監督作品にしては分かりやすい構成だったのは驚きだったけど、主人公の人生はそう流れていくしかなかったんだろうなあって思った。
北であれ、南であれ、いや、世界中のどこでも、人の幸せを国レベルでどうにかしようとしちゃ、イカンってことですよ。国家ありきの国民の幸せじゃなくて、市民の生活ありきの国なんですから。


映画を観終わったら、急いで久留米に戻り、録画してあった大相撲春場所の千秋楽を見る。もちろん、電車の中ではネット断ちして、結果は知らない。友人のH君からLINEでメッセージが来てたけど、絶対に相撲の結果に関係することだから、申し訳ないけど開かなかった。
横綱土俵入りは昨日と同様、稀勢の里の柏手は無音。やはり、左肩あたりが痛むのだろう。今日も鶴竜戦のように、力ない負けを予想していた。
しかし、だ。立ち会いで稀勢の里が右に変化する動きを見せたものの待ったが入り、この人は決して諦めていないことを確信した。と、同時に無理をして傷を悪化させ、力士生命を縮めることにならないよう祈った。仕切り直して、見合う稀勢の里照ノ富士。明らかに照ノ富士のほうが取りづらそうな顔をしていた。
両者立ち上がると、今度は稀勢の里は左へ。めったに変化しない人なのに、なんでこんなに右へ左へと動けるんだろうと驚いた瞬間、見事に足を使った横の動きから、照ノ富士を右で捕らえ、突き落としてしまったのだ。
ビックリした、どこにそんな力が残っていたのか。これが気力というものか。いや、照ノ富士の左膝もかなり悪そうだったので、稀勢の里の横の動きに対応できなかったのかもしれない。
約20分後の優勝決定戦。もう出るだけで十分なんて思っていなかった。大銀杏を結い直してもらっている照ノ富士の表情を見ると、かなり戸惑っているように見えた。また、左膝だって2度目に取り組みまで持ちこたえられるか分からない。こうなったら、稀勢の里が断然有利に見えてきた。
結果は左を刺す動きを見せながらも、最後は右腕一本渾身の小手投げで稀勢の里勝利。土俵から落ちるとき左肩からいっていたから、明日以降、どうなっているか心配だけど……
稀勢の里もだけど、カド番の照ノ富士も満身創痍だった。いつかまた、万全の状態で2人の優勝争いが観たい。いや、きっと各界はそういう流れになっていくだろう。

稀勢の里、横綱の責任感 休場危機も迷わず出場決断(日刊スポーツ)
<大相撲春場所>◇千秋楽◇26日◇エディオンアリーナ大阪
19年ぶりに誕生した日本出身の新横綱が、歴史に残る奇跡の優勝を成し遂げた。稀勢の里が本割、優勝決定戦で大関照ノ富士に2連勝。2日前に負った左肩付近のけがで休場危機に陥りながら逆転した背景には、驚異的な回復力と土俵に向き合う真剣な姿勢があった。
春場所13日目の24日。初黒星の一番で負傷し、激痛に苦しみながら救急車で病院へ運ばれた。東京など遠方からかかりつけの整体師らを呼び寄せ、24日夜には迷うことなく出場を決断。関係者によると、付け人たちに「出るから。準備を頼む」と告げたという。治療を施した柔道整復師は「普通の力士なら休場でしょう。でも横綱の選択肢には全くなかった。責任感と気持ちの大きさだと思う」と声を震わせる。
稀勢の里の頑丈な肉体を支えるのは回復力だ。2014年秋場所10日目の宝富士戦。左四つとなった土俵中央で左肩を脱臼し、動けなくなった。長い相撲の末に敗れ「立っているのがやっとだった。土俵上で脂汗が止まらなかった」と吐露する。翌日は珍しく患部にテーピングを施して、完敗。しかし取組後に東京都内の治療院へ直行すると、肩は元通りになった。


流れといえば、昨日の照ノ富士の変化がかなり厳しく批判されている。相撲はスポーツであり興行でもあるから、流れが重要になってくる。それでいうと、大関復帰を掛けて1敗することも許されない状態の琴奨菊に対して、変化してしまうというのはイタダケナイ選択だった。もちろん、対応できなかった琴奨菊もよくない。でも、流れを無視してまで勝ちにこだわり、変化してしまった照ノ富士は、左膝の状態が悪かったとしても、今後の大関としての評判を落としてしまった。観客はあれを琴奨菊が人生をかけて立ち向かった対戦だと思っていたのだから。膝の状態を考えれば、可哀想ではあるのだけど……