すでに、コペルニクスらによる地動説、ダーウィンらによる進化論、そしてフロイトユングによる無意識の発見を経て、近代世界が体験したふたつの大戦の無惨な殺戮から、人間は「世界の中心にいて、正しい理性にしたがって生きることができる存在だ」との神話が崩れさった。謎を解明し犯人をつきとめ真相を明らかにする探偵小説の秩序回復の物語など、現実にはどこにもない。文字で描いた小説のなかの遊戯にすぎない。すべては迷宮入りしたままの秩序なき世界なのである。
アメリカン・タブロイド』ジェイムズ・エルロイ著(文春文庫)解説より